
■上川龍之進『小泉改革の政治学』東洋経済新報社、2010年
目次
1章 小泉改革は揺らぐことなく進んだのか
2章 不良債権問題はいかにして解決されたのか(政策過程)
3章 同上(分析)
4章 官邸主導の予算編成はどこまで実現したのか
5章 経済財政諮問会議はなぜ税制改革に失敗したのか
6章 2005年総選挙は政策過程をどのように変えたのか
7章 日本銀行はなぜ金融政策を転換したのか
終章 小泉改革の成果と限界
本書は、小泉政権期における経済政策の決定過程を記述するもので、
その目的は、小泉改革がどの程度実現されたのかを検証することにある。
分析枠組みは、合理的選択制度論に則りつつも、各政治アクターの目的を「利益・理念・制度」の相互関係から柔軟に解釈・設定。金融行政、予算編成、税制改正、金融政策を事例として取り上げている。
本書の中核的な問いは以下の二点。
①供給面重視の経済政策はゆるぎなく実施されたのか。
②小泉の意思はどの程度政策に反映されたのか、それを阻害する要因は何か。
著者は、上記二点についての先行研究を批判する。
先行研究では、「政治改革・行政改革により強化された党首・首相権限を、世論の支持を受けた小泉が活用することで、政策決定を内閣に一元化、トップダウンの意思決定を行うことで、経済政策の転換を断行。結果、不況下にもかかわらず財政再建と金融システムの安定化が進められ景気回復を実現した」という「強い首相」イメージが支配的。
著者は、時期・政策分野別にみるとこうしたイメージが妥当しないことを指摘する。
具体的には、不良債権処理を指示するも柳沢大臣が抵抗し改革が頓挫した例、2001、2002年度予算編成において与党の財政出動圧力を受け補正予算を組まざるを得なかった例、法人減税や改革還元型減税を実現できなかった例を挙げ、主として2005年総選挙以前では首相のリーダーシップが限定的で、族議員や官僚が依然として影響力を行使する様が叙述される。
結論として、「首相のリーダーシップ発揮を制度以外の要因が阻害し、需要面にも妥協した政策が採られた。制度以外の要因としては、能力・忠誠心のある大臣の不在、首相・大臣の政策理念の不一致、首相の政策関心・コミットメントの欠如が事例分析から導かれる」として、首相権力の限界を指摘した。
☆
小泉政権研究を一段階進めた点がすごい。
新自由主義路線や劇場型政治を批判するマスメディアや、制度要因、個人的素質に首相のリーダーシップを帰着させる先行研究のイメージを、詳細な叙述的推論に基づき修正している。政策分野・時期毎に政策過程を分析し、リーダーシップ発揮の条件を探ることは今後も進める余地がある。
方法論も面白い。概して特定が難しいないし不可能な政治アクターの目的を、「利益・理念・制度」の明確な枠組みを用いて柔軟かつ慎重に解釈している。三要素の相互関係の不明確さや、恣意的な解釈という批判はあるだろうが、仮定された目的から導かれる複数の仮説を仔細に検証して出された結果には納得がいく。
ただし、問題点も指摘できる。
まず、3章の不良債権処理について、柳沢・竹中両金融担当相、森金融庁長官、金融庁の官僚の目的を「地位保全仮説」から解釈しているが、いずれも政治的利益を政策理念に優位させて解釈している点に無理があるように思う。特に、竹中が短期的な実績確保を急いだとする説には納得できない。
次に、6章の2005年以後の政策過程に関する叙述が大雑把すぎるように感じる。求心力を増した小泉が「鶴の一声」で三位一体改革や政府系金融機関の統廃合を進めた叙述についてはもちろん、「郵政選挙」により自民党支配を確立した小泉が、政策決定の中心を党政調会に移しても影響力を保持したとする説を支持する叙述も不十分の感がある。
最後に、終章の2001、2002年度の予算編成・金融行政において「首相主導」が発揮されなかったがゆえに、財政出動と中小企業向け融資が維持され、景気の底割れを防いだとの記述は、経済学的な実証分析を踏まえず論じられているので、皮肉としては面白いが本書だけからは判断できないので不要だと思う。
☆
小泉政権には興味があり、先行研究に疑問もあった。
その点、本書はそこに応えてくれていて面白く読めた。
フォロワーの方に着目した研究がないから、調べてみようかなぁ。
(H・ω・M)